注)ジェスターのひとり言、あの時呟いたひとり言とは全く異なる世界観です。いわゆるもしもシリーズ。
作者?
「諸君・・。親しみを込めて『久しぶり』と言わせてもらおう。
・・・ほぉ。私は倒されたのではなかったのか?・・と?
クク・・・その通り。では私は一体誰なのか?倒されたはずの作者か?それとも・・・
新しい作者となったキューか?だがそんなことはどうでもよい。
ここは私の世界だ。そして私は君達を招待した。
諸君は私の能力を覚えているだろうか?
・・・ふむ、十人十色の答えが返ってきたな。
だが全て正解だと私は答えよう。私は世界を創造し、創造した世界を自由に弄る事が出来る。
今、私の手の上に一つの球体がある。
これが何か分るかね・・・。
そうだ、キュピル達の住む星。そして、星の上に浮かぶ巨大な大陸・・・アノマラド大陸。
今回は私の楽しみを諸君にも知ってもらいたいが故に招待した。
さっそく・・私が普段、どのような事をして楽しんでいるのか・・・見て貰おう。
ここに・・・私が作りだした最高傑作の男・・キュピルがいる。
彼の統率、機転は称賛に値する。
そしてここにも私が作りだした人間・・・ルイがいる。
この者の執着心は異常だ。悪魔のように・・いや、それより遥かに上位と魔物が持つ恐ろしい固執・・
嫉妬を常に持ち続けている。私がそうさせたのだがな
この二人は幼馴染という設定が作られており、二人の仲は恋人にまで発展していく。
・・そして私はそれを利用したのが君達の言う『本編』だ。
私の左手を見たまえ。一人の女性が立っているのが分るだろう?
この者の名は輝月。紅の道場の正統な後継者・・当主『様』だ。
こいつは私が作りだした人間ではないのだが中々に面白い素質を持っている。
特筆すべき点は異様なプライドの高さ・・だ。自分の自尊心を常に満たさなければ気分を害する。
・・・の癖してだ。この者の実力。実はたいした事がない。
奴は自分の事を最強の武人だと認識しているようだが実際は中の下。いや、下の下だ。
キュピルのように戦術も弁えず、男性以下の力。弱い弟子を従えて自分が上だととにかく自尊心を満たしたがる。
だが諸君達が言う『物語』の『後半』に行くにつれ徐々に角がなくなっていく。
輪をあまり乱さず、互いに共通の敵・・それはつまり私の事だが。欠点を補いながら立ち向かうようになる。
キュピルとルイと輝月。この三人は偶然何事もなく、ただの『仲間』として物語は終えた。
しかし。一つの線が偶然重なり本来ルイが辿るべきはずの線を輝月が辿る可能性があったのだ。
・・・クク、訂正だ。私が変えたのだ。このままでは私にとって面白くない展開が起きると思ってな?
だが諸君にとっては面白い展開かもしれん。今回、君達にキュピルとルイ・・そして輝月。
あの者達が本来辿るべきはずだったその世界線。それをお見せしよう・・・。
だが諸君にその世界線を見せる前に忠告しておこう。
非常に後味が悪い。」
ジェスターのひとり言・シーズン14(第十一話より一部引用)
ジェスター
「ぐすん・・・」
キュピルに背中をさすってもらうジェスター。
さすっている間琶月から出来事を聞く。
キュピル
「そんなことがあったのか。うーむ、前々からヘルが輝月の事を目の敵にしていたのを知っていたが・・。
・・ちょっとヘルの肩を持ちすぎたか・・?流石に度が過ぎちまったな・・・。
・・・だが輝月の言動も少し気になる。感情に若干乏しい輝月があそこまで怒り狂うとはな・・」
琶月
「・・私どうすればいいでしょうか・・」
普段琶月はキュピルの事を邪険に扱うがやはりこう言う時は頼りになると分かっているらしい。
キュピル
「とりあえず後で俺が輝月の所に行ってくるよ。」
琶月
「お願いします・・」
キュピル
「ジェスター、落ちついたか?」
ジェスター
「うん・・。」
キュピル
「ちょっと輝月の所に行ってくる。少し昼寝するといいよ」
ジェスター
「もう夜だよ」
キュピル
「なら、歯磨いて早く寝て」
そういってキュピルが道場から出て行った。
作者
「この後、キュピルはこの輝月の抱えるコンプレックスを知ることとなる。
輝月のコンプレックス。それは男と女・・・性別の違いによって生じた・・生まれつきの力の差だ。
人間は体のつくりの関係上、女性が男性の力を越す事は非常に難しい。」
キュピル
「輝月」
輝月
「・・・またお主か。一人にしろと言ったはずじゃぞ?」
キュピル
「とりあえず、このタオルで前は隠しておけ。背中に包帯を巻く」
輝月
「・・・・」
キュピル
「それ以上出血すると命に関わる。それに男女関係ないって自分で言ったろ」
輝月
「・・・琶月から聞いたのか?」
キュピル
「悪いが全部聞いた。」
輝月
「人の過去をやすやすと話しおって・・・。・・・お主は私を恐れているか?」
キュピル
「逆に問う。輝月、何に恐れている。恐れるものは何もないはずだ」
輝月
「・・・お主に分るか?この屈辱・・恐怖・・怒り!自分が自分でなくなっていくこの感触!!
・・・力だけが消えて行くと思っておった・・。だが今、術の効果まではっきりと落ちているではないか・・・。」
キュピル
「輝月。約束しよう」
輝月
「・・約束じゃと?」
キュピル
「今から俺は輝月の背中に包帯を巻く。巻いている間輝月は深呼吸して気持ちを落ちつかせる。
深呼吸してる間は何も考えずに景色を見てるんだ。
そして気持ちが落ちついたら陣を使ってみろ。ほら、タオル」
輝月
「サラシぐらい巻いておる。」
輝月が黙って和服を脱いだ。・・・かなりキツメにサラシを巻いているようだ。
キュピルが消毒液で消毒してから背中に包帯を巻き始めた。
・・・傷は思ったより深かった。
和服の背中にあてがっていた部分は血でべっとり汚れていた。
・・・あと数十分止血が遅れていたら大変なことになっていたかもしれない。
キュピル
「(本当にやせ我慢が得意だな・・輝月)」
巻き終わるのに20分ほどかかった。
キュピル
「終わった。落ちついたか?」
輝月が和服を着直しながら答えた
輝月
「・・・何も考えずに、ただ景色を見ていたのは何年ぶりじゃろうか・・・」
キュピル
「夜のナルビクの海はいいだろ?俺も落ち込んだりもうだめだと思った時はいつもこの海を見ている」
輝月
「ほぉ、お主でも落ち込む事はあるのか?」
キュピル
「こう見えても結構ナイーブだ。落ち込みやすい」
輝月
「・・・ふっ、意外じゃのぉ。・・どれ、お主に言われた通り。陣を使ってみようか」
輝月が立ち上がり呪文を唱える。そして刀を一振りして陣を唱えた。
さっきと比べて強く光っていて眩しい程だった。
輝月
「・・・呪文の効果が上がった・・・。どういうことだ?」
キュピル
「呪文や魔法の効果は精神力に大きく左右される。心が揺さぶられている状態だとその威力は半減だ。
・・・輝月。武術も同じだ。心が揺さぶられていて前が見えない状態だと力はいつもの半分になるぞ」
輝月
「・・・・・」
キュピル
「明日の朝、道場に来てくれ。効率のいい修行方法を考えよう。
今の輝月はもう基礎体力は出来あがっているはずだ。・・技を教える、それで強くなれるはずだ。」
輝月が振り返りキュピルの襟首を掴んだ。
キュピル
「っ!?」
輝月
「頼む、今すぐ教えてくれ・・!!
・・・悔しいのだ・・。あんな奴に負けた事が・・!!一度勝てた相手に負けたことが屈辱でならんのだ!!」
キュピル
「ヘルには教えてやれなかったが・・・。その感情がダメなんだ、輝月」
キュピルが輝月の手を取って離した。
キュピル
「いいか?絶対に人を見下すような心をもっちゃだめだ。思っても心にしまわずすぐに捨てろ。
その感情は人を弱くする。」
輝月
「・・・しかし・・!」
いつもの口調を変えて涙目になりながら懇願する。
キュピル
「・・・難しいよな。いきなりこんな事言われたって普通誰も分らない。
正しい心ってのは本来誰かが優しく接してくれた時、正しい心が見えてくるんだ。
・・・でも最近の人達は誰かに対して優しくしようとしない。その結果他の人も誰かに対して優しくならない。
こういう連鎖のせいで今は誰かに優しくするってのは少なくなってしまった」
輝月
「うっ・・くっ・・・」
輝月が泣き始めた。
キュピル
「・・・琶月が心配していたぞ。たまには琶月に優しくしたらどうだ?
きっと琶月も輝月に優しくしてくれる。・・・輝月には大切な仲間がいるじゃないか」
輝月
「・・・お主は・・・キュピルは・・・・・・」
その時冷たい風が吹いた。
・・・季節の変わり目だ。
キュピル
「・・・もうすぐ秋が始まるな。寒くなってきた、戻ろう」
泣きじゃくる輝月の肩を押して家に戻る。
とりあえずクエストショップの方の裏口ではなく自宅の入り口から入って少し落ちついてから部屋に帰らせよう。
家に入る前に輝月が立ち止った。
キュピル
「どうした?」
輝月
「・・・一つだけ教えて欲しい。・・・真の強者とは何なのだ・・・?
本当はお主は知っておるのだろう?」
キュピル
「知っている。でも今言っても輝月には分らないかもしれない」
輝月
「言ってくれ!」
キュピル
「『強い』、だよ」
そういって家の扉を開けた。
家に帰るとファンとジェスターがいた。
ジェスターが空気を呼んで暖かいミルクを用意してくれた。
キュピル
「落ちついたら部屋に戻りな」
輝月
「・・・かたじけない」
作者
「ここから先のやり取りは皆が言う『本編』とやらでも見たまえ。
・・・諸君達は気付いただろうか?・・・この者。輝月が一度、台詞を中断してしまった事に。」
輝月
「・・・お主は・・・キュピルは・・・・・・」
その時冷たい風が吹いた。
作者
「この者はまさに危ない一言を発しようとしていた。
あやうく私の本来の計画を逸らしてしまう重大な事をしでかそうとしたのだからな。
では、お待ちかねの・・運命を弄るとしよう。
私の指の先端についているこの白い糸。これを切り・・別に糸と結び付ける。
これだけで、運命は変わる。では、輝月が最後まで台詞を言っていたらこの世界はどうなっていたのか?
違う世界を見届けるがいい・・・。」
キュピル
「・・・琶月が心配していたぞ。たまには琶月に優しくしたらどうだ?
きっと琶月も輝月に優しくしてくれる。・・・輝月には大切な仲間がいるじゃないか」
輝月
「・・・お主は・・・キュピルは・・・・。」
キュピル
「・・・・?」
輝月
「お主の事を・・・心配してくれる奴はおるのか・・・・?」
キュピル
「・・・そんなことは心配しなくてもいいよ。しっかり俺の事を理解して心配してくれる仲間がいる。
だから俺もそれに応えて一緒に強くなれている。」
輝月
「・・・・それは誰じゃ・・?」
キュピル
「・・・色々と事情があって身近な人物で言うとファンしかいない。
ジェスターは・・・ハハ・・多分そんなに心配してないんだろうね、きっと。」
輝月
「・・・・・・。」
キュピル
「さ、明日の朝から一緒に修行するんだろ?一緒に戻ろう」
泣きじゃくる輝月の肩を押して家に戻る。
とりあえずクエストショップの方の裏口ではなく自宅の入り口から入って少し落ちついてから部屋に帰らせよう。
家に入る前に輝月が立ち止った。
キュピル
「どうした?」
輝月
「・・・一つだけ教えて欲しい。・・・真の強者とは何なのだ・・・?
本当はお主は知っておるのだろう?」
キュピル
「知っている。でも今言っても輝月には分らないかもしれない」
輝月
「言ってくれ!」
キュピル
「『強い』、だよ」
作者
「・・・そして、ここから先は更に夜が更け皆寝付こうとした時の話だ、」
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
ガンガン
キュピル
「・・・・・」
ガンガンガンガンガン
キュピル
「誰だよ!こんな深夜に!マキシミンだったらぶっ飛ばす!」
勢いよく窓をあけて殴る準備をする。が、窓の向こうに居たのは輝月だった。
キュピル
「うっ・・」
振りあげて拳をすぐに降ろす。
キュピル
「何だ、輝月か・・。てっきり俺の腐れ縁の知り合いかと思った・・。部屋に戻ったんじゃなかったのか?」
輝月
「・・・何故いつも通り私と接することができる」
キュピル
「?」
輝月
「・・・私の過去を聞いた者は少なからず態度が変動した。・・・恐れを抱いてな。」
キュピル
「別に恐れるような話は何もなかったと思うが・・」
また輝月がキュピルの襟首を掴む。
輝月
「ワシは・・!!私は!!自分の親を殺したのだ!!
自分が消える事を恐れ生きのびるために殺し・・。霞月を無残な殺し方を・・・してしまった・・・。
・・・ヘルに負けた時・・・。過去の記憶が蘇って再び我を見失ってしまった・・。」
キュピル
「間違っていたと思っているか?」
輝月
「・・・怖いのだ・・・。・・・死が・・・。死から逃れるためにもしかすると私は・・力を欲していたのかもしれぬ・・」
表では万能で既に悟りを開いていて賢人のように見える輝月。
だが本当はまだ17歳・・・。子供だ。・・・怖くて当然だ。
キュピル
「死が怖くない人が居たらそいつは精神が狂っている。・・・輝月。
親殺しの罪は確かに重いかもしれない。他人に知られたら輝月が怖く見えて誰も近寄らなくなるかもしれない。
・・・だけどよかった。」
輝月
「・・・よかった?」
キュピル
「たまにいるんだ。こんな事を思う人が。
『一度やっちまったものはしょうがない。忘れてこれからは前を見てちゃんと生きていけよ』って。
・・・俺は逆だと思うんだ。悔いは永遠に心の中に残しておかなければいけない。
そしてそれを糧にして生きて行く。・・・忘れたらまた繰り返しだからな。
輝月がやってしまったことをちゃんと覚えていてそれをずっと悔い続けていたってことを知って今安心した。
だけど輝月。さっき永遠に心の中に残しておかなければいけないと言ったが常にそれを思い出す必要はない。
・・・時々でいい。例えば寝る時や風呂入ってる時とかな。その一分の間だけでいい。ずっと思いだしていたら
逆に疲れるだろ?」
輝月
「・・・私はどうすれば・・・」
キュピル
「自分で考えなって言いたいが流石にそれは辛すぎるな。ヒントだけあげよう。
・・・輝月、今日はちゃんと琶月に優しくしてやれたか?」
輝月
「・・・突然優しくなったワシを見て気持ち悪がると思ったが・・。
・・・奴は素直じゃった」
キュピル
「それがヒントだ。後は自分で考えな」
輝月
「最後に聞かせて欲しい。・・・何故お主は私を恐れぬ?それだけが不思議なのだ。
ましてや・・・何故お主は・・色んな事を知っている」
キュピル
「・・・難しい質問だな・・・。俺自身よくわからない。何で恐れを抱かないんだろうね。」
輝月
「・・・お主のその眼。・・・決意と覚悟に満ち溢れておるぞ。・・・何を思っている」
・・・・・。
輝月に言われて初めて気がついた。
・・・そうか・・・。気が付いたら俺は覚悟を決めていたのか。
人生に覚悟を決めて生き続けるとは何とも奇妙なものだ・・・。
キュピル
「言われて初めて気がついた。俺も人生が怖いよ」
そう言って窓を閉めようとした時輝月が止めた。
輝月
「何の覚悟を決めておる」
キュピル
「プライバシー」
そういって今度こそ窓を閉めようとした。・・・が、全力で閉めようとしているが輝月も全力で止めるものだから
全く閉まらない。次第に疲れて観念した。
キュピル
「ぜぇ・・。なんだ、力が抜けて行くとか行っておきながら全然力あるじゃないか・・って・・」
よくみたら窓枠に刀が挟まっていた。・・・・これは酷い。
輝月
「死をも恐れぬその覚悟。じゃが・・・。
・・・ワシ・・いや、私はお主の事が心配だ。」
キュピル
「心配?」
輝月
「・・・突然お主が消えるような気がしてな。」
キュピル
「大丈夫だって・・・。それよりも俺は眠くて眠くて意識が消えそうだ。」
輝月
「キュピル。」
輝月が軽い身のこなしで窓を乗り越えキュピルの部屋に入る。
輝月
「キュピル。・・・私はまだここに居てもよいか?」
キュピル
「どういうことだ?」
輝月
「・・・一時的に我を見失い・・そして発狂した私を見て皆私から離れて行った・・。
・・・離れてゆく中・・何処にも行かず、私の傍に残り支えてくれたのは琶月・・・そしてお主だけじゃ。
・・・お主に・・だからこそ言え・・る。」
輝月が目に涙を浮かべ、そして段々と嗚咽する。
輝月
「もう・・あんな・・我を見失って・・・道が見えなくなって・・・一人・・取り残され・・るのは・・
嫌・・じゃ・・!!あんな・・・寂しく・・辛い気持ちは・・二度と・・味わいたくないっ・・・!!」
泣きながら輝月がキュピルに飛びつく。
驚きのあまりにそのまま一緒に後ろに倒れる。
輝月がキュピルの肩を力強く握る。
目を開けると、すぐ目の前に輝月の顔があった。
輝月
「頼む・・・!!ずっと・・・ずっと私の傍に居て・・・ワシを・・・私を・・・くっ・・・
あああああぁぁぁっっ!!!」
ついに大泣きしてしまった。
・・・どうしようもなくなったキュピルはただ優しく輝月を抱きしめてあげた。
受け止められた事に気付いた輝月が更に大きな泣き声を上げ涙でキュピルの服を濡らした。
数週間後。キュピルは一大決心することとなる。
後編に続く
作者
「パラレルワールドの素晴らしさに気付くが良い。」